クリーンルームの省エネは、電気代の内訳を測ってから、清浄度・室圧・温湿度の設定を見直す順で進めます。東京大学の「クリーンルーム(CR)省エネガイドライン」(2022年3月)の実測では、ある実験用の部屋の消費電力量の83.4%が、清浄度・室圧・温湿度を保つための設備に使われていました。
工事をせずに試せる対策も多くあります。一方で、風量を下げすぎると清浄度が崩れ、夜間に空調を止めると翌朝の立ち上げで電力が増えることもあります。
この記事では、同ガイドラインの実測値と試算、省エネ法の届出の基準を、2026年9月15日に原文と条文で確認した内容にもとづいて整理します。
目次
クリーンルームの電気代は何に使われているか
クリーンルームの電気代の大半は、清浄度・室圧・温湿度を保つための送風機と空調に使われています。製品をつくる装置そのものより、部屋の環境を維持する設備のほうが大きいのが特徴です。
同ガイドラインは、空調エネルギーが一般の部屋より大きくなる要因として、次の5点を挙げています。
- 室圧を保つために外気を多く取り入れる
- 室内の温湿度の要求が厳しい
- 実験装置や生産装置が熱を出す
- 清浄度を保つための送風機のモーターが熱を出す
- 空調は原則24時間運転になる
東京大学の2つの部屋で電力を計測した結果は次のとおりです。
| 計測した部屋 | 計測期間 | 内訳 |
|---|---|---|
| CR①(クラス1000・61㎡とクラス100・42㎡、天井高3m) | 2020年8月27日〜12月4日(2,370時間) | 清浄度・室圧・温湿度の維持83.4%、実験16.6%。維持分を区分すると清浄度30%・室圧4%・温湿度環境48% |
| CR② | 2019年11月20日〜2020年11月30日 | 各種ファンの電力量の合計58%、熱源機のチリングユニット22%。年間を通じて一定に動くファンの合計は約27kW |
CR①では、温湿度の維持に次いで、清浄度を保つFFU(ファンフィルターユニット)のファンの電力が大きいと報告されています。どの設備に電気が流れているかは部屋ごとに違うため、対策の順番を決める前に、系統ごとの電力を測ることが出発点になります。FFUの仕組みはFFUとはで解説しています。
クリーンルームの省エネは設定の見直しから
クリーンルームの省エネで最初に手を付けやすいのは、清浄度・外気導入量・温湿度の「設定」が必要以上になっていないかの見直しです。ガイドラインでは、これらを工事費がかからない対策に分類しています。
ガイドラインは、対策ごとにコストと省エネ効果を記号で示しています。記号は著者の経験則による目安と注記されています。
| 対策 | 観点 | コスト | 省エネ効果 |
|---|---|---|---|
| 清浄度の設定の見直し | 清浄度 | 工事費なし | 高い |
| 計測にもとづく循環風量の低減 | 清浄度 | 安い | 高い |
| 適切な外気導入量の設定 | 室圧 | 工事費なし | 普通 |
| 排気量の削減 | 室圧 | 安い | 高い |
| 室内温湿度の設定の緩和 | 温湿度 | 工事費なし | 普通 |
| LED照明の採用 | 温湿度 | 安い | 普通 |
| インバータ制御の採用 | 室圧 | 普通 | 低い |
| 外壁の断熱の見直し | 温湿度 | 高い | 普通 |
清浄度は工程に必要なクラスに合わせる
清浄度が高いほど、室内の粒子を減らすための循環風量が増え、ファンの電力が増えます。ガイドラインは確認事項として、必要以上の清浄度に設定していないか、設定した清浄度に対して風量が多すぎないかを挙げています。工程ごとに必要なクラスを分ける考え方はクリーンルームのクラスとは、換気回数との関係はクリーンルームの換気回数で整理しています。
温湿度の許容幅は発汗も含めて決める
ガイドラインによると、室内の温湿度は一般的に22〜24℃前後、相対湿度40〜55%前後に保つものが多く、上限と下限を厳しくするほどエネルギーも設備費も増えます。ただし、クリーンスーツを着る作業者は汗をかきやすく、発汗による汚染を防ぐため23℃などに抑える例もあります。温度を上げる方向の緩和には、作業者の発汗という限界がある点に注意してください。法令と製品の要求の関係はクリーンルームの温湿度管理で解説しています。
クリーンルームの循環風量は実測で下げる
クリーンルームの循環風量は、稼働中の粒子数を実測し、清浄度クラスの許容値に収まる範囲で下げるのが基本です。設計時は人や装置からの発塵量を推測するしかないため、実際の風量には余裕が含まれていることがあります。
ガイドラインは、東京大学のCR①のうちクラス1000の部屋で、FFUの風量をインバータ制御で下げたときの粒子数と消費電力を計測しています。クラス1000の許容値は、0.5μmの粒子が1,000個/ft³以内です。
| 時間帯 | FFU風量 | 0.5μmの粒子数(計測点1〜3) | 平均消費電力 |
|---|---|---|---|
| 非作業時 | 100%(制御なし) | 0/0/0個/ft³ | 2.8kW |
| 非作業時 | 87% | 0/0/0個/ft³ | 1.5kW |
| 非作業時 | 50% | 37/65/—個/ft³ | 0.7kW |
| 作業時 | 100%(制御なし) | 57/14/0個/ft³ | 2.8kW |
| 作業時 | 87% | 8/27/0個/ft³ | 2.1kW |
| 作業時 | 50% | 174/89/66個/ft³ | 1.0kW |
ガイドラインは、非作業時を50%、作業時を87%の風量とし、それぞれ1日12時間と仮定して試算しています。結果は非作業時で年9,198kWh、作業時で年3,066kWhの削減です。
風量を下げる前提として、ガイドラインは2つの注意を書いています。1つは、入室者がクリーンスーツを正しく着るなどのルールを守って初めて風量を下げられることです。もう1つは、循環風量が清浄度と温湿度の両方を満たすように決まっているため、温湿度を保てる風量を下回ってはいけないことです。入室時の発塵を減らす手順はクリーンルームの入室手順で扱っています。
クリーンルームの夜間・休日運転と間引き
作業しない夜間や休日は、循環風量・外気導入量・温湿度の設定を落として必要最小限で運転することで電力を減らせます。ガイドラインはこれを「休日夜間モード運転」と呼び、立ち上げに要する時間を実測で確かめるよう求めています。
| 対象 | 方法 | 注意点 |
|---|---|---|
| 循環風量 | 送風機の回転数を下げる、FFUの一部を止める(間引き運転) | 回転数は下げられる限界がある。回復時間は清浄度を測って計画する |
| 外気導入量 | 排気機器を止める、または風量を下げ、室圧の維持に必要な外気を減らす | 排気を減らせる装置かを確認する |
| 温湿度 | 設定温湿度を緩める、条件がそろえば空調熱源機を止める | 翌日の立ち上げに多くの電力を使うことがある |
FFUの間引き運転は配線で効果が変わる
FFUの間引き運転とは、FFUの一部を止めて循環風量を減らす運転のことです。FFUの制御配線は列ごとにまとめられることが多いのに対し、ガイドラインは50%を止める場合に千鳥状に配線しておくと、給気のばらつきが減り清浄度の偏りを抑えられるとしています。
東京大学のCR③では、新設時から千鳥の配線にしていたため、平日の夜間(22時〜翌6時など)と土日に一部の系統を止めています。ガイドラインの試算では、クラス1の部屋(204㎡)が年81,000kWhから67,000kWhへ(18%削減)、クラス100の部屋(408㎡)が年126,000kWhから91,000kWhへ(28%削減)となっています。
空調を夜間に止めると増えることもある
同じCR③では、空調機(室外機)を夜間に止める試行で、翌日に室内環境を戻すための運転が増え、かえって電力が増える結果になりました。ガイドラインは空調熱源機を止める条件として、停止期間が長いこと、復帰時間が短いこと、復帰に要するエネルギーが少ないことの3点を挙げ、試験運用で採否を判断するよう書いています。
クリーンルームの外気と排気を減らす
クリーンルームは陽圧を保つため、装置の排気量と壁などからの漏れを上回る外気を取り入れ続けています。その外気は夏に冷却・除湿、冬に加熱・加湿が必要なので、排気と外気を減らすことが空調の電力を大きく下げます。
ガイドラインは、内装材からの漏れを見込んで室容積の1〜2回/h程度の加圧を見込む必要があるとしています。東京大学のCR①は、外気導入機の風量が1,200m³/h、2部屋の容積が約300m³で、4回/hの加圧になっていました。ガイドラインは導入量を3分の1まで抑えられると見たうえで、外気導入量を50%に下げた場合のファンの削減を年4,926kWhと試算しています(省エネ率は風量比の2乗で計算)。
| 対策 | ガイドラインの試算・記載 | 注意点 |
|---|---|---|
| 余っている排気ファンを止める | CR①で0.3kWのファンを常時停止し、年2,628kWh削減の試算。陽圧の維持にも効果が期待できる | 装置の排気が要る場合は止められない |
| 外気導入量を下げる | CR①で導入量50%として年4,926kWh削減の試算 | 在室人数に必要な換気量を下回らないようにする |
| 照明と排気ファンを連動させる | CR②で2台のうち1台を不在時に停止する想定で、年8,760kWh削減の試算 | 化学系の排気が逆流するおそれがある |
| 貫通部からの漏れを防ぐ | 漏れが減れば必要な加圧空気も減る | 建築側の工事になる |
室間の差圧は、一般室から準清浄域、低清浄域、高清浄域の順に5〜10Paずつ高くするのが一般的とされています。差圧をつけすぎると、壁の倒壊や天井の浮き上がり、扉の開閉の支障が起きるおそれがあり、30Pa以上は特に注意とガイドラインは書いています。差圧が崩れる原因はクリーンルームの換気回数と差圧、空調の構成はクリーンルームの空調の仕組みで解説しています。
クリーンルームの省エネ投資は回収年数で比べる
工事を伴う省エネ対策は、年間の削減電力量・初期費用・投資回収年数を並べて比べると判断しやすくなります。ガイドラインは東京大学のCR②で、3つの対策をこの形で整理しています。
| 対策 | 削減電力量 | 初期費用 | 年間の削減額 | 投資回収年数 |
|---|---|---|---|---|
| 化学排気ファン2台のうち1台を照明と連動 | 8,760kWh/年 | 60万円 | 15.8万円 | 3.81年 |
| 熱源機と補機(ポンプ)の連動制御 | 5,808kWh/年 | 68万円 | 10.5万円 | 6.50年 |
| 空調機・外気・排気ファンのインバータ化 | 83,817kWh/年 | 669万円 | 150.9万円 | 4.43年 |
インバータ化の試算は、在室時に風量85%、不在時に70%とした場合の値です。今の電気料金の単価で計算し直すと削減額と回収年数は変わるため、自社の契約単価に置き換えて比べてください。
設備更新のときに見直す項目
- 照明——ガイドラインの参考値では、Hf照明63.2W/台に対しLED照明24.8W/台。消費電力と空調負荷の両方が下がる
- 冷却水の温度——送水温度を1℃上げると冷凍機の消費電力を3%程度下げられる見込み。装置が求める水温より下げすぎない
- フィルタ——ろ材面積を増やす、低圧損型を選ぶことで抵抗が下がりファンの電力が減る。必要以上の性能のフィルタは圧力損失が増えることがある
- 空調機の容量——実際の熱負荷に対して容量が大きすぎると低負荷運転になり効率が落ちる。更新前に運転データで負荷を確かめる
フィルタの目詰まりと交換の判断はHEPAフィルターの交換頻度で扱っています。
クリーンルームの省エネと省エネ法の届出
クリーンルームを持つ工場が省エネ法の対象になるかは、会社が設置するすべての工場等のエネルギー使用量の合計が、原油換算で年度1,500キロリットル以上かどうかで決まります。設備単体ではなく、事業者全体の合計で判断します。
| 区分 | 基準 | 主な義務・根拠 |
|---|---|---|
| エネルギー使用状況の届出 | 全工場等の前年度の使用量の合計が1,500kl以上 | 使用量などを経済産業大臣に届け出る(法第7条第3項・施行令第2条) |
| 特定事業者 | 上の基準以上として経済産業大臣が指定 | 中長期的な計画の作成・提出(法第15条)、毎年度の定期の報告(法第16条) |
| 第一種エネルギー管理指定工場等 | 特定事業者の工場等のうち、1か所で年度3,000kl以上 | 工場等ごとの指定(法第10条・施行令第3条) |
定期の報告には、エネルギーの使用量だけでなく、エネルギーを消費する設備の設置と改廃の状況も含まれます(法第16条第1項)。クリーンルームの新設や空調の更新は、報告の内容に関わる設備の変更です。省エネの効果を後から示せるよう、更新の前後で系統ごとの電力を測っておくと、報告と投資判断の両方に使えます。
クリーンルーム新設時に伝える省エネの条件
後から変えにくい省エネの条件は、設計の段階で施工会社に伝えておく必要があります。配線・ダクト・部屋の配置は、竣工後に変えると改修工事になるためです。
- 夜間・休日の運転モード——FFUの間引きを見込むなら千鳥の配線、送風機にはインバータ制御を入れるか
- 計測のしくみ——系統ごとの電力計と、粒子数・差圧を常時見るモニタリングを設けるか。風量を下げる根拠になる
- 外気と排気の設計——装置の排気量と止められる時間帯、加圧の回数、漏れを減らす貫通部の処理
- 空調の方式と容量——外気の処理と室内の熱の処理を分ける方式にするか。装置の台数・稼働時間・人数から熱負荷を見積もれるか
- 部屋の配置——ガイドラインは、外壁沿いを避け、外部に面する窓を原則設けないことを挙げている
作業点だけを清浄にできる工程なら、部屋全体ではなくクリーンブースで囲うと、送風と空調の範囲そのものが小さくなります。発生源に近い順に対策を選ぶ考え方は工場の粉塵対策、ランニングコストを含めた費用の見方はクリーンルームの費用はいくら?で整理しています。
運転費の試算まで提案に含められるかは、会社によって違います。見積もりを依頼するときは、上の条件と年間の運転時間を伝え、初期費用と運転費を同じ前提で出してもらうと比べやすくなります。当サイトでは、設計施工会社をクリーンルーム設計施工会社の比較ページで公表情報つきで並べています。研究施設の事例は研究施設のクリーンルーム施工会社、既存工場の改修はクリーンルーム改修工事も参考にしてください。
クリーンルームの省エネに関するよくある質問
クリーンルームの省エネについて、電気代で最も大きい設備、FFUを夜間に止めてよいか、空調の夜間停止で電力が増える場合、省エネ法の届出が必要になる基準など、対策を始める前に多い質問に本文の内容をもとに答えます。
クリーンルームの電気代で一番大きいのは何ですか?
部屋によって違います。東京大学の省エネガイドラインの計測では、ある部屋は温湿度の維持48%・清浄度30%で空調が最大、別の部屋は各種ファンの合計が58%でした。系統ごとに電力を測ってから対策の順番を決めてください。
クリーンルームのFFUは夜間に止めても大丈夫ですか?
清浄度を測ったうえで一部を止める方法があります。ガイドラインの事例では、千鳥状に配線したFFUの一部系統を夜間と土日に止め、FFUの電力量で年18〜28%の削減を見込んでいます。立ち上げに要する時間を実測し、温湿度を保てる風量を下回らないようにしてください。
クリーンルームの空調を夜間に止めると省エネになりますか?
ならない場合があります。ガイドラインの事例では、空調機の夜間停止で翌日の立ち上げの運転が増え、かえって電力が増えました。停止期間が長く、復帰時間が短く、復帰に要するエネルギーが少ない場合に限り、試験運用で判断します。
クリーンルームがあると省エネ法の届出が必要ですか?
クリーンルームの有無ではなく、会社の全工場等のエネルギー使用量の合計で決まります。前年度の合計が原油換算1,500キロリットル以上なら、使用状況の届出が必要です。特定事業者に指定されると、中長期計画の提出と毎年度の定期報告が求められます。
この記事を書いた人
執筆・編集:クリーンルームラボ 編集部
クリーンルームの設計施工会社について、対応分野・施工体制・公表実績を公式情報にもとづいてまとめています。
参照した情報:東京大学 TSCP産学連携研究会 クリーンルーム高効率化方策検討WG「クリーンルーム(CR)省エネガイドライン」(2022年3月)/e-Gov法令検索「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」(第七条・第十五条・第十六条)/e-Gov法令検索「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律施行令」(第二条・第三条)(2026年8月29日確認)
最終更新:2026年9月24日
