クリーンルームの入室手順は、更衣室での着替え・粘着ローラー・手洗いと消毒・エアシャワー・入室という5ステップが基本形です。どの工程も、人が持ち込む発じんを段階的に減らすために置かれています。
手順を守れるかどうかは、運用より先に設計で決まります。医薬品の製造では、GMP省令が無菌医薬品の作業室について「専用の更衣室を有すること」と定めており(2026年9月4日にe-Gov法令検索で確認)、前室と更衣室は運用の都合ではなく設備の要件です。
この記事では、5ステップの中身、根拠になっているクリーンルーム4原則、防塵服と持ち込み物の扱い、そして計画段階で前室の広さをどう決めるかまでを整理します。
目次
クリーンルームの入室手順は5ステップ
クリーンルームの入室手順とは、人が室内へ持ち込む粒子を段階的に減らすための決められた順序です。一般的には更衣室での着替えから始まり、粘着ローラー、手洗いと消毒、エアシャワーを経て入室する5つの工程で構成します。
| 順序 | 工程 | 取り除くもの |
|---|---|---|
| ① | 更衣室で防塵服に着替える | 私服の繊維くず、体表からの発じん |
| ② | 粘着ローラーを全身にかける | 防塵服の表面に付いた毛髪・繊維 |
| ③ | 手洗い・アルコール消毒 | 手指の汚れと菌 |
| ④ | エアシャワーを通る | 衣服に残った付着粒子 |
| ⑤ | 粘着マットを踏んで入室 | 靴底のごみ |
この順序には理由があります。後の工程ほど取り除く粒子が細かくなる構成で、粗いごみを先に落としてから細かい付着粒子を除く流れです。順番を入れ替えると、せっかく除いた粒子を再び付けることになります。
実際の手順は業種で変わります。半導体・電子部品では粒子の管理が中心になり、医薬品・食品では微生物の管理が加わって手洗いと消毒の比重が上がります。自社がどちらの汚染を防ぎたいのかで、工程の重みが変わると考えてください。
各工程で使う設備の詳細は、エアシャワーの記事で風速と吹き付け時間の考え方を整理しています。
入室手順の根拠はクリーンルーム4原則
クリーンルーム4原則とは、清浄度を保つための4つの考え方です。持ち込まない、発生させない、堆積させない、排除する。入室手順は、このうち「持ち込まない」を実行するための具体策にあたります。
| 原則 | 意味 | 対応する設備・運用 |
|---|---|---|
| 持ち込まない | 外部から粒子を入れない | 前室、更衣室、エアシャワー、パスボックス、入室手順 |
| 発生させない | 室内で粒子を出さない | 防塵服、無塵紙、発じんの少ない内装材 |
| 堆積させない | 粒子をとどめない | 気流設計、丸みのある納まり、定期清掃 |
| 排除する | 発生した粒子を運び出す | HEPAフィルター、換気回数、陽圧の維持 |
4原則のうち、入室手順で効くのは1つめだけです。残りの3つは、内装材の選定や空調の設計で決まります。手順書をいくら厳しくしても、換気回数が足りなければ清浄度は保てません。
設備側の条件は換気回数の記事とHEPAフィルターの記事で整理しています。人の管理と設備の管理は、どちらか一方では成立しません。
クリーンルームの服装は防塵服と手袋で決まる
クリーンルームの服装は、体から出る粒子を外に漏らさないことを目的とした構成です。防塵服、フード、マスク、手袋、クリーンシューズを組み合わせ、肌と私服の露出をなくします。
着用の順序にも決まりがあります。上から下へ、内から外へが原則です。
| 順序 | 着用するもの | 注意点 |
|---|---|---|
| 1 | インナー・クリーン用の下履き | 私服の繊維が出ないものに替える |
| 2 | フード(頭巾) | 毛髪を完全に収める。顔まわりの隙間をなくす |
| 3 | マスク | フードの内側に収める構成が一般的 |
| 4 | 防塵服(つなぎ・上下) | 床に触れさせない。フードの裾を服の内側に入れる |
| 5 | クリーンシューズ | 更衣室の清浄側で履き替える |
| 6 | 手袋 | 最後。袖口を覆う。二重にする現場もある |
※着用の構成は現場の清浄度クラスと業種によって異なります。医薬品の無菌区域では滅菌された作業衣を使うなど、要求が上がります。
更衣室で起きやすい失敗が2つあります。防塵服を床や壁に触れさせることと、着替えの途中で清浄側と非清浄側を行き来することです。どちらも更衣室が狭いと起こります。手順の問題に見えて、実際は設計の問題です。
前室と更衣室はGMP省令が求める設備
前室と更衣室は、あれば望ましい設備ではありません。医薬品の製造では、法令が構造設備の要件として明記しています。
GMP省令(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令)は、無菌医薬品に係る製品の製造について、調製作業や充塡作業を行う作業室の要件を定めています。そこには「ロの作業を行う職員の専用の更衣室を有すること」と書かれており、専用の更衣室を持つことが構造設備の条件になっています(2026年9月4日確認)。
同じ省令は、区域の呼び方も定義しています。設計の打ち合わせで用語が食い違わないよう、条文の定義を確認しておきます。
| 用語 | 省令上の定義(要約) |
|---|---|
| 作業所 | 医薬品等に係る製品の製造作業を行う場所 |
| 作業管理区域 | 作業所のうち、作業室・廊下等から構成され、全体が同程度に清浄の維持ができるように管理される場所 |
| 清浄区域 | 作業所のうち、原料の秤量作業を行う場所、薬剤の調製作業を行う場所、洗浄後の容器が作業所内の空気に触れる場所 |
| 無菌区域 | 作業所のうち、無菌化された薬剤や滅菌された容器が空気に触れる場所、薬剤の充塡作業、容器の閉塞作業、無菌試験等の無菌操作を行う場所 |
※e-Gov法令検索で公開されているGMP省令の条文(令和8年5月1日施行時点)から要約しました。判断の根拠にする際は原文を確認してください。
医薬品以外の業種でも、この構造は参考になります。非清浄側と清浄側を更衣室で分け、その境界を人が一方向に通る——この形が守れていれば、業種が変わっても手順は成立します。
参照:e-Gov法令検索|医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令
クリーンルームへの持ち込み物は3段階で絞る
人と同じく、物にも入室のルールが要ります。持ち込みの判断は、そもそも入れない・入れるが処置する・専用品に置き換える、の3段階で整理すると運用しやすくなります。
| 判断 | 対象の例 | 扱い |
|---|---|---|
| 持ち込まない | 段ボール、木製パレット、一般の紙・鉛筆、私物 | 前室の外で開梱し、中身だけを移す |
| 処置して持ち込む | 工具、測定器、部材 | 清拭してパスボックス経由で搬入する |
| 専用品に置き換える | 筆記具、記録用紙、清掃用具 | 無塵紙・クリーン対応品を室内専用として常備する |
実務で最も多い持ち込み源は段ボールです。開梱時に大量の紙粉が出るため、前室の外で開けて中身だけを入れるのが基本になります。前室に開梱スペースがないと、この運用は続きません。
物の出入りが多い現場では、人の入口とは別にパスボックスを設けます。人が扉を開ける回数が減り、気流の乱れと粒子の侵入を抑えられるためです。設備の構成は空調の記事で整理しています。
入室手順は清浄度クラスによって変わる
必要な工程数は、目標とする清浄度クラスによって変わります。クラスが厳しくなるほど更衣の段数が増え、動線も長くなります。
| 清浄度の水準 | 入室の構成(目安) | 更衣室 |
|---|---|---|
| ISOクラス8前後 | 着替え → 粘着ローラー → エアシャワー → 入室 | 1室で足りることが多い |
| ISOクラス7前後 | 上記に手洗い・消毒と靴の履き替えを加える | 清浄側と非清浄側を分ける |
| ISOクラス6以上 | 段階的な更衣。二重手袋、滅菌作業衣を使う場合がある | 複数室に分けて一方通行にする |
※構成の目安であり、規格や法令が工程数を定めているものではありません。要求される清浄度と製品の特性に応じて、設計段階で決めることになります。クラスの定義はクリーンルームのクラスの記事を参照してください。
計画段階で見落とされやすいのが前室の面積です。同時に入室する人数を想定せずに設計すると、朝の始業時に更衣室が詰まります。ピーク時の同時入室人数を先に決めてから、前室と更衣室の広さを決めるのが順序です。
クリーンルームの退室手順も決めておく
退室の手順は入室ほど注目されませんが、決めておかないと室内の汚染源になります。防塵服をどこで脱ぎ、どこに掛け、いつ交換するかが曖昧だと、翌日の入室で汚れた服を着ることになるためです。
決めておく項目は4つです。
- 脱衣の場所——入室と同じ更衣室か、別に退室用を設けるか。一方通行にできるなら分けるほうが確実です
- 防塵服の保管方法——ハンガーに掛けるのか、専用ロッカーか。床や壁に触れない置き方にします
- 交換の頻度——毎日か、週◯回か。洗濯を外部に出す場合は予備の枚数も決めます
- 使い捨て品の廃棄場所——手袋・マスクを室内で捨てるのか、退室後か。室内に置くならフタ付きにします
あわせて、日常の清掃手順とセットで文書にしておくと運用が安定します。清掃の進め方と記録の残し方は清掃の記事で整理しました。
入室手順を守れない設計になっていないか
手順が守られない現場には共通点があります。運用の意識ではなく、設計の段階で無理が入っていることがほとんどです。計画中の図面で確認できる項目を挙げます。
| 図面で見る点 | 問題が起きる状態 |
|---|---|
| 前室の広さ | ピーク時の同時入室人数に対して狭く、着替えが渋滞する |
| 動線の向き | 入室と退室が同じ扉で交差し、清浄側と非清浄側が混ざる |
| 物の搬入口 | パスボックスがなく、人の扉から台車が出入りする |
| 手洗い設備の位置 | 更衣室の外にあり、着替えた後に非清浄側へ戻る必要がある |
| ロッカーの容量 | 私服と防塵服を分けて収められず、同じ場所に掛けることになる |
いずれも竣工後には直しにくい項目です。前室を1㎡広げるのは図面の段階なら簡単ですが、稼働後は壁を動かすことになります。設計の打ち合わせでは、清浄度の数値だけでなく、朝の始業時に何人が同時に入室するかを伝えてください。
施工会社を選ぶ段階なら、前室と更衣室の設計実績を確認するのが早道です。クリーンルーム施工会社の比較ページでは、対応できる清浄度クラスと施工範囲を並べています。見積もりの取り方は見積もりの記事で整理しました。
クリーンルームの入室手順に関するよくある質問
クリーンルームの入室手順について、4原則の中身、法令で決まっているか、エアシャワーの要否、前室の広さの決め方、防塵服を着る順番、段ボールの持ち込み可否に、本文の内容をもとに答えます。
クリーンルームの4原則とは何ですか?
持ち込まない・発生させない・堆積させない・排除する、の4つです。入室手順が担うのは1つめの「持ち込まない」で、残りの3つは防塵服や内装材、換気回数やHEPAフィルターといった設備側で実現します。手順だけでは清浄度は保てません。
入室手順は法令で決まっていますか?
工程そのものを定めた法令はありません。ただし医薬品の製造では、GMP省令が無菌医薬品に係る作業室について「専用の更衣室を有すること」と構造設備の要件を定めています(2026年9月4日にe-Gov法令検索で確認)。業種ごとに求められる水準が異なるため、該当する法令とガイドラインを確認してください。
エアシャワーは必ず必要ですか?
必須と定められているものではありませんが、多くの現場で入室工程に組み込まれています。粘着ローラーで取りきれない付着粒子を風で落とす役割があるためです。設置する場合は通過時間と風速の設定を決め、手順書に書いておきます。
前室はどのくらいの広さが必要ですか?
面積の基準はありません。決め方は、ピーク時に同時入室する人数と、着替えの工程数から逆算します。朝の始業時に何人が同時に入るかを設計者に伝えると、必要な更衣スペースとロッカーの数量が決まります。
防塵服はどの順番で着ますか?
上から下へ、内から外へが原則です。インナー、フード、マスク、防塵服、クリーンシューズ、手袋の順で、手袋を最後にして袖口を覆います。着替えの途中で防塵服を床や壁に触れさせないことと、清浄側と非清浄側を行き来しないことが要点です。
段ボールは持ち込んでよいですか?
前室の外で開梱し、中身だけを持ち込むのが基本です。段ボールは開梱時に紙粉が多く出るため、室内での開封は避けます。この運用を続けるには、前室の外に開梱スペースを確保しておく必要があります。
この記事を書いた人
執筆・編集:クリーンルームラボ 編集部
クリーンルームの設計施工会社について、対応分野・施工体制・公表実績を公式情報にもとづいてまとめています。
参照した情報:e-Gov法令検索|医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(GMP省令)/e-Gov法令検索|食品衛生法施行規則/日本産業標準調査会(JISC)|JIS検索(2026年8月29日確認)
最終更新:2026年9月4日
