クリーンルームの性能を決めるのは、フィルタの性能そのものではありません。単位時間あたりに何回空気を入れ替えるか(換気回数)と、隣の部屋との圧力差をどちらの向きに何パスカルつけるか(差圧)の2つが、清浄度を維持できるかどうかを決めます。換気回数は部屋の体積に対する1時間あたりの送風量の比で表し、清浄度クラスが1桁上がるごとに必要な回数も大きくなります。
この記事では、換気回数がどう決まるのか、陽圧と陰圧をどう使い分けるのか、そして竣工後に差圧が崩れる典型的な原因を整理します。換気回数は見積金額に直結する項目であり、各社が置く前提が違えば同じクラスの見積もりでも金額が変わります。
目次
クリーンルームの換気回数は何で決まるのか
換気回数とは、1時間あたりに室内の空気が何回入れ替わるかを表す数値のことです。クリーンルームでは、この回数が清浄度を保つ力と電気代の両方を左右します。まず何で決まるのかを整理します(2026年8月29日時点)。
換気回数は「1時間に室容積の何倍の空気を送るか」を表します。清浄度クラスが厳しいほど大きくなり、室内の発塵量が多いほど大きくする必要があります。決め方は次の3要素の組み合わせです。
| 要素 | 内容 | 換気回数への効き方 |
|---|---|---|
| 要求清浄度 | 維持したい粒子数の上限 | クラスを1桁厳しくすると必要風量が大きく増える |
| 発塵量 | 人の数と動き、装置からの発塵、持ち込み物 | 作業人数が増えるほど必要換気量が増える。人は最大の発塵源 |
| 気流方式 | 一方向流(層流)か非一方向流(乱流)か | 一方向流は風速で規定するため、換気回数の概念とは別の設計になる |
非一方向流の部屋では、清浄な空気で汚れた空気を希釈する考え方をとります。そのため「換気回数を確保する」ことが清浄度維持と同義になります。一方、半導体の前工程で使われる一方向流では、天井全面から床へ一定の風速で流すため、設計の物差しが風速に変わります。
クラスごとの推奨換気回数として業界で流通している数値がありますが、出典と前提条件が明示されないまま引用されていることが少なくありません。設計に使う値は、規格原文と設計者の計算根拠を確認してください。
クリーンルームの換気回数の計算はどう組み立てるか
換気回数は「必要風量 ÷ 室容積」で表されます。必要風量は清浄度・発塵量・作業人数で変わるため、部屋の広さだけでは決まりません。
換気回数の計算は、必要風量を求めてから室容積で割る手順になります。実務では次の順に検討します。
- 室容積を出す——床面積×天井高。天井内の高さは含みません
- 清浄度から必要風量を仮置きする——要求クラスに応じた換気回数を仮定して風量を算出します
- 発塵量から必要風量を検証する——作業人数と装置の発塵を見込み、希釈に必要な風量を確認します
- 熱負荷から必要風量を検証する——装置の発熱を処理するのに必要な風量。これが清浄度側の風量を上回ることがあります
- 大きいほうを採用する——3つの検証のうち最大値が設計風量になります
4番目を忘れると、清浄度は満たすのに温度が上がる部屋ができます。装置の発熱が大きい工程では、熱負荷側が支配的になることがあります。見積もり時に「換気回数の根拠は清浄度か熱負荷か」を確認すると、設計の精度がわかります。
クリーンルームの陽圧と陰圧はどう使い分けるか
差圧は、室と室の間で空気がどちらへ流れるかを決めます。守る対象が製品なら陽圧、守る対象が外の環境なら陰圧です。
| 設定 | 目的 | 該当する場面 |
|---|---|---|
| 陽圧 | 外から汚れた空気を入れない | 半導体、電子部品、無菌医薬品、食品の清潔区域 |
| 陰圧 | 中のものを外に出さない(封じ込め) | 感染性微生物、高薬理活性物質、粉体を扱う区域 |
| 段階的な差圧(カスケード) | 清浄度の高い室から低い室へ順に流す | 更衣室・前室を挟む多室構成。医薬品施設の基本形 |
クリーンルームで多室構成をとる場合、各室の圧力を階段状に設定し、扉を開けたときに逆流しないようにします。前室(エアロック)は、この階段の踊り場にあたります。陽圧と陰圧の両方が必要な施設では、前室の数と各室の圧力設定を平面計画と同時に決める必要があります。
差圧の具体的な設定値は、適用される規制と用途で変わります。医薬品施設では規制の要求を、封じ込めが必要な施設では所管官庁の基準を確認してください。用途ごとの考え方はバイオクリーンルームと医薬品工場のクリーンルームで解説しています。
クリーンルームの差圧が崩れる4つの原因
竣工時は基準を満たしていたのに、運用に入ると差圧が保てなくなる——これはよくある相談です。原因はほぼ次の4つに絞られます。
| 原因 | 何が起きているか | 典型的な兆候 |
|---|---|---|
| フィルタの目詰まり | 抵抗が増えて風量が落ちる | 差圧計の値が徐々に下がっていく |
| 扉の開閉頻度 | 扉を開けるたびに圧力が抜ける | 人の出入りが多い時間帯だけ差圧が不安定になる |
| 気密性の低下 | パネルの継ぎ目・配管貫通部・天井点検口のシールが劣化する | 特定の場所で風速が出る。経年で徐々に悪化する |
| 後付けの改造 | 装置の追加で排気を増やしたのに給気を増やしていない | 改造の前後で差圧が変わっている |
いずれも設備を作り直さずに対処できる場合があります。差圧が保てなくなったら、まず粒子数・差圧・風速を測って原因を切り分けてください。改修の進め方は既存工場のクリーン化改修にまとめています。
換気回数と清浄度クラスの関係
換気回数は清浄度クラスと切り離せません。要求クラスが厳しくなるほど必要な風量が増え、同じ部屋でも空調機と天井フィルタの規模が変わります。ここが設備費と電気代の分かれ目になります。
| 清浄度の考え方 | 気流の方式 | 換気回数への効き方 |
|---|---|---|
| 部屋全体を一定の清浄度に保つ | 非一方向流(乱流方式) | 室容積に対する回数で設計する。回数を増やすほど清浄度は上がるが風量も増える |
| 特定の面だけを高清浄度にする | 一方向流(層流方式) | 回数ではなく吹き出し面の風速で設計する。局所に絞れば全体の風量を抑えられる |
| 局所だけを清浄化する | クリーンブース・局所清浄装置 | 部屋全体の換気回数を上げずに、必要な場所だけ清浄度を確保できる |
※清浄度の等級区分はISO 14644-1、国内ではJIS B 9920が対応します。規格の版と内容は日本産業標準調査会(JISC)のJIS検索で確認してください。
要求クラスを一律に上げると、換気回数も設備も過剰になります。工程のどこに高い清浄度が必要かを切り分けると、部屋全体の回数を上げずに済む場合があります。方式の違いはクリーンルームの空調はどんな仕組み?で解説しています。
換気回数は実測して記録に残す
設計値どおりに風量が出ているかは、竣工時と稼働後で変わります。フィルタが目詰まりすれば風量は落ち、換気回数も設計値を下回ります。引き渡し時に何を測り、どの書式で残すかを先に決めておいてください。
| 確認する項目 | いつ | なぜ必要か |
|---|---|---|
| 吹き出し風量・風速 | 竣工時/定期 | 換気回数が設計値を満たしているかの根拠になる |
| 室間差圧 | 竣工時/日常 | 陽圧・陰圧が保たれているか。扉の開閉で崩れていないかを見る |
| 浮遊粒子数 | 竣工時/定期 | 清浄度クラスを満たしているかの直接の確認 |
| フィルタの差圧 | 日常 | 目詰まりの進行度。交換時期の判断材料になる |
測定の記録が残っていないと、後から清浄度が落ちたときに「元から出ていなかったのか、劣化したのか」を切り分けられません。竣工時の実測値は、その後の判断の基準になります。フィルタ側の管理はクリーンルームのHEPAフィルターは交換頻度をどう決める?にまとめました。
換気回数を上げずに清浄度を保つ
清浄度が足りないときに換気回数を上げるのは、最後の手段です。風量を増やせば設備費も電気代も上がります。先に確認すべきなのは、粒子を持ち込んでいないか、室内で発生させていないかという入口側の対策です。
| 対策 | 具体的にやること | 設備費への影響 |
|---|---|---|
| 持ち込みを減らす | 入退室の手順、更衣室の配置、エアシャワーの運用。入口で落とせば室内の負荷が下がる | 運用の見直しだけなら費用はかからない |
| 発生を減らす | 発塵しにくい内装材と作業着、装置からの発塵対策(床材とパネルの選び方) | 内装の仕様で決まる。後から変えると改修になる |
| 堆積させない | 清掃の頻度と方法。堆積した粒子は気流で再飛散する | 運用コスト。設備投資は不要 |
| 局所化する | 部屋全体ではなく、必要な工程だけをクリーンブースで囲う(クリーンブースとは) | 部屋全体の清浄度を上げるより安い場合が多い |
これらは業界で「クリーンルームの四原則」として整理されている考え方(持ち込まない・発生させない・堆積させない・速やかに排除する)に沿ったものです。換気回数はこの4つを満たしたうえで決める数値であり、単独で上げても費用対効果は悪くなります。
※空気清浄の技術情報は公益社団法人 日本空気清浄協会が機関誌や研究大会で公開しています(2026年8月29日時点)。
クリーンルームの換気回数は電気代に直結する
換気回数を大きくすれば清浄度は上がりますが、送風機の消費電力は風量の増加以上に増えます。換気回数を過剰に設定した部屋は、稼働している限り毎年電気代を払い続けることになります。
設計段階でとれる対策は次のとおりです。
| 設計段階でとれる対策 | 内容 | 前提・注意点 |
|---|---|---|
| 必要な部屋だけ上げる | 全室を一律の換気回数にしない。工程ごとに要求を分ける | 平面計画の段階で決める。動線設計が複雑になる |
| 局所清浄化と組み合わせる | 作業点だけをクリーンブースで清浄にし、部屋の換気回数を下げる | 作業範囲が広い工程には向かない |
| 可変風量の制御を入れる | 夜間・休日に風量を落とせるようにする | 清浄度の回復時間を事前に検証しておく。設計時にしか選べない |
| 還気の比率を検討する | 外気処理は負荷が大きいため、還気を使える範囲を確認する | 用途によっては還気が制限される(医薬品・バイオなど) |
高砂熱学工業は「省エネに特化したクリーンルーム」を課題解決の切り口として掲げ、成層空調システムの導入実績を63件・延べクリーンルーム面積395,000㎡(2026年1月時点)と公表しています。運転費の試算を提案書に含められる会社かどうかは、見積もり依頼時に確認しておく価値があります。比較はクリーンルーム設計施工会社の比較をご覧ください。
クリーンルームの換気回数に関するよくある質問
クリーンルームの換気回数について、クラスごとの基準値があるのか、差圧を何パスカルにすべきか、回数を上げれば清浄度は必ず上がるのかという3つの質問に、本文の内容をもとに答えます。
クリーンルームの換気回数の基準値はありますか?
クラスごとの推奨値として業界で流通している数値はありますが、出典と前提条件が明示されないまま引用されていることが少なくありません。実際の設計では、清浄度から求めた風量、発塵量から求めた風量、熱負荷から求めた風量の最大値を採用します。設計者に計算根拠を示してもらってください。
クリーンルームの差圧は何パスカルにすべきですか?
適用される規制と用途で変わるため、一律の値はありません。多室構成では清浄度の高い室から低い室へ階段状に差をつけ、扉を開けたときに逆流しない設定にします。医薬品施設では規制の要求値を確認してください。
換気回数を上げれば清浄度は必ず上がりますか?
一定までは上がりますが、発塵源が室内にある場合は換気回数を上げても限界があります。人の動きや装置からの発塵が原因なら、無塵衣の見直し、動線の変更、局所排気のほうが効果的です。まず粒子測定で発塵源を特定してください。
この記事を書いた人
執筆・編集:クリーンルームラボ 編集部
クリーンルームの設計施工会社について、対応分野・施工体制・公表実績を公式情報にもとづいてまとめています。
参照した情報:公益社団法人 日本空気清浄協会(JACA)/日本産業標準調査会(JISC)JIS検索/当サイト調べ(掲載12社の公式サイトを2026年8月29日に確認)(2026年8月29日確認)
最終更新:2026年8月29日
