クリーンルームの空調は、一般のビル空調とは目的が違います。人の快適性ではなく、粒子を持ち込ませず・発生した粒子を速やかに排出することが目的で、そのために気流の向きを設計します。
この記事では、その空調システムがどう組み立てられているのか、一方向流と非一方向流で何が変わるのか、そして空調方式の選択が費用にどう跳ね返るのかを解説します。空調方式は建物の計画段階で決まってしまう項目で、後から変更するのが最も難しい部分です。
目次
クリーンルームの空調の仕組みは3つの要素でできている
温湿度を整える一般空調に「微粒子の除去」と「室圧の制御」が加わったものです。この3つのどれが不足しても清浄度は保てません。
クリーンルームの空調とは、温度と湿度に加えて、微粒子の量と室内の圧力までを制御する空調設備のことです。一般空調との違いはこの2つが加わる点にあり、設備の構成も費用の考え方も変わります(2026年8月29日時点)。
この空調システムは、大きく3つの部分で構成されます。
| 要素 | 役割 | 設計上の論点 |
|---|---|---|
| 外気処理 | 取り入れた外気の温度・湿度を調整し、粗い粒子を除去する | 消費エネルギーが大きい。必要外気量をどう決めるか |
| 循環(還気) | 室内の空気を回収し、フィルタを通して再び送る | 送風動力が大きい。還気を使える範囲は用途で制限される |
| 最終フィルタ | 室内へ吹き出す直前でHEPA/ULPAフィルタを通す | 枚数と配置。天井内のスペースと点検性に直結する |
清浄度を維持するために風量が必要なので、循環量は一般のビル空調と比べて桁違いに大きくなります。しかしその空気をすべて外気から作ると、冷暖房と除湿の負荷が膨大になります。そのため、室内の空気を循環させながら、必要な分だけ外気を混ぜる構成が基本になります。
新日本空調は産業空調について、人ではなく「生産機器やサーバーの稼働に欠かせない空調設備」と位置づけて説明しています。目的が人の快適性ではないという点が、一般のビル空調との根本的な違いです。
クリーンルームの空調方式は一方向流と非一方向流に分かれる
どちらを選ぶかで設備規模と費用が大きく変わります。要求清浄度が高いほど一方向流に近づき、設備も大きくなります。
気流の作り方には2つの系統があります。どちらを選ぶかで、設備の規模と建設費が桁で変わります。
| 方式 | 気流のつくり方 | 向いている用途 | 設備規模 |
|---|---|---|---|
| 一方向流(層流) | 天井全面から床へ、一定の風速で平行に流す。発生した粒子をその場で押し流す | 半導体の前工程、無菌操作の作業ゾーン | 天井全面にフィルタ、床は通気性のあるグレーチング。最も大規模 |
| 非一方向流(乱流) | 天井の一部から吹き出し、室内で混合しながら希釈する | 組立、包装、医薬品の準清浄区域、食品の清潔区域 | フィルタは部分配置。多くの現場で採用される |
| 併用 | 部屋は非一方向流、作業点だけ一方向流のブースやフードで清浄化 | 高い清浄度が必要な作業が局所的な場合 | 最も費用対効果が高くなる場合がある |
近年は3番目の併用型が増えています。部屋全体を一方向流にする代わりに、装置内やブース内だけを高清浄にして、部屋のクラスを1〜2ランク緩める考え方です。半導体の分野ではミニエンバイロメントと呼ばれる構成が一般化しています。判断の材料は簡易クリーンルームとクリーンブースにまとめています。
クリーンルームの空調設計で金額が動く項目
同じ清浄度でも、空調の設計次第で見積金額は大きく変わります。相見積もりで差が出るのは主に次の項目です。
- 換気回数の前提——各社が置く前提が違えば必要風量が変わり、機器容量も変わります
- 空調機の新設か流用か——既存機の能力が足りるかどうかで数百万円動きます
- 外気の取り方——専用の外調機を設けるか、既存の系統から分岐するか
- 除湿方式——低露点が必要な場合、デシカント除湿など別系統の設備が要ります
- 制御の作り込み——差圧の自動制御、可変風量、夜間モードの有無
- 天井内のスペース——ダクトとフィルタユニットが納まらないと、天井高を下げるか建築側を触ることになります
見積書に「空調工事一式」とだけ書かれている場合、上の6項目のどれがどうなっているかがわかりません。内訳を出してもらったうえで比較してください。手順はクリーンルームの施工手順と見積もりの取り方にまとめています。
クリーンルームの空調は温湿度の精度でも変わる
清浄度と並んで空調方式を左右するのが、温湿度の許容幅です。±1℃と±0.1℃では、必要な制御も機器構成もまったく別物になります。
| 要求 | 実現方法の例 | 影響 |
|---|---|---|
| ±1〜2℃ | 一般的な空調制御で対応できる範囲 | 標準的な構成 |
| ±0.5℃以下 | 室内に再熱・再冷の制御を追加する。センサーの配置も精度に影響する | 制御機器と調整の手間が増える |
| 低露点(低湿度) | デシカント除湿など別方式の除湿設備を追加する | 設備が1系統増える。運転費も増える |
高砂熱学工業は、リチウムイオン電池の製造工程などに向けてドライルーム®技術を公開し、リチウムイオン電池関連を中心に180件以上の納入実績と、露点温度-100℃の超低露点環境への対応を示しています。クリーンルームの汚染対策では独自開発のケミカルワッシャーを紹介しています。低露点が要件になる工程では、この領域の技術情報を公開している会社かどうかが判断材料になります。
温湿度の許容幅は「厳しくしておけば安心」ではありません。製品品質に必要な根拠を持って決めてください。過剰な精度要求は建設費と運転費の両方を増やします。
クリーンルームの空調は保守のしやすさまで含めて設計する
フィルターや空調機の交換は稼働後に必ず発生します。点検口の位置や交換動線を設計段階で決めておかないと、稼働を止める時間が延びます。
竣工後に困るのは、性能ではなく点検のしにくさです。設計段階で次を確認してください。
- フィルタの交換動線——天井裏から交換するのか室内側から交換するのか。室内側なら生産を止める必要があります
- 点検口の位置と数——ダンパー、センサー、ドレンの点検が届く位置にあるか
- 差圧計の設置場所——日常点検で見に行ける位置か
- 機械室への搬入経路——将来の機器更新で搬入できるか
- 予備品の入手性——特注品が多いと交換に時間がかかります
これらは図面審査の段階でしか指摘できません。設計図が出てきたら、日常点検を担当する現場の人にも見てもらってください。維持管理の実務はHEPAフィルターの交換時期と清浄度測定で解説しています。
クリーンルームの空調に関するよくある質問
クリーンルームの空調について、一般の空調との違い、一方向流と非一方向流の選び方、既存の空調機を流用できるかなど、設計の相談前に多い質問に本文の内容をもとに答えます。
クリーンルームの空調は一般の空調と何が違いますか?
目的が違います。一般の空調が人の快適性のために温湿度を調整するのに対し、粒子を持ち込ませず、発生した粒子を速やかに排出することが目的です。そのため循環風量が桁違いに大きく、気流の向きを設計する点が根本的に異なります。
一方向流と非一方向流はどちらを選ぶべきですか?
要求清浄度と、高い清浄度が必要な範囲の広さで決まります。作業点が局所的なら、部屋は非一方向流にして作業点だけをクリーンブースで清浄化する併用型が費用対効果に優れます。部屋全体で最高水準が必要な場合に一方向流を選びます。
既存の空調機を流用してクリーンルーム化できますか?
能力が足りれば可能です。ただし循環風量が桁違いに大きいため、一般空調用の機器では風量が不足することが多く、実際には増設や更新が必要になる場合が多くなります。現地調査で既存機の能力を実測してもらってください。
この記事を書いた人
執筆・編集:クリーンルームラボ 編集部
クリーンルームの設計施工会社について、対応分野・施工体制・公表実績を公式情報にもとづいてまとめています。
参照した情報:公益社団法人 日本空気清浄協会(JACA)/蒲田工業 クリーンルームの設計・施工/当サイト調べ(掲載12社の公式サイトを2026年8月29日に確認)(2026年8月29日確認)
最終更新:2026年9月25日
