バイオクリーンルームとは、空気中のちり・ほこりだけでなく、微生物による汚染まで管理するクリーンルームのことです。正式にはバイオロジカルクリーンルーム(BCR)と呼ばれ、医薬品の製造室、病院の手術室、食品工場、動物実験施設などで使われます。
半導体工場などで使われる工業用(ICR)が「回路を壊す粒子」を抑えるのに対し、BCRは「製品や人に害を及ぼす菌」を抑えます。そのため清浄度の基準の出典も、室内を陽圧にするか陰圧にするかも、用途によって変わります。
この記事では、工業用との違い、清浄度クラスと基準の出典、用途別の使われ方、手術室の清浄度区分、設計と施工依頼で発注者が決めることを、公表されている一次情報にもとづいて整理します。
目次
バイオクリーンルームと工業用の違い
バイオクリーンルームとは、空気中の微粒子に加えて微生物(細菌・真菌など)による汚染を管理対象とするクリーンルームのことです。
ヤマト科学の用語集は「粉塵だけでなく微生物や細菌も除去したクリーンルーム」と定義しています(2026年9月8日確認)。分類上は、半導体・液晶・精密機器などの工業用をインダストリアルクリーンルーム(ICR)、医薬品・医療・食品・バイオ研究向けをバイオロジカルクリーンルーム(BCR)と呼び分けます。掲載企業の蒲田工業は、両者の違いを次のように整理しています。
| 項目 | 工業用(ICR) | バイオ(BCR) |
|---|---|---|
| 管理対象 | 塵埃・微粒子・化学物質 | 微生物と微粒子の両方 |
| 対象の大きさ | 0.1〜0.5µmの微細な粒子 | 0.5〜10µm(5µm中心) |
| 清浄度クラス | ISOクラス1〜8 | ISOクラス5〜8 |
| 室圧 | 陽圧(外から粒子を入れない) | 陽圧・陰圧の両方に対応 |
| 維持の方法 | 清掃(クリーニング) | 洗浄・除菌・消毒・滅菌 |
| モニタリング | 塵埃濃度・化学物質濃度 | 微生物数と塵埃濃度 |
ポイントは、微粒子管理の土台の上に、微生物の管理を載せるという発想です。微生物は単独で浮遊するより塵に付着して運ばれるため、まず粒子を抑え、そのうえで浮遊菌・落下菌の測定と、洗浄・消毒に耐える内装仕様が加わります。
なお、名前が似ている「無塵室」は塵(微粒子)を管理する部屋=クリーンルーム全般の言い換えで、「無菌室」は微生物まで管理する部屋、つまりBCRとほぼ同義に使われる言葉です。用語の違いは無塵室の記事で整理しています。
バイオクリーンルームのクラスと規格
バイオクリーンルームのクラスは、ISO 14644の粒子基準に、浮遊菌・落下菌など微生物の管理基準を重ねて決めます。蒲田工業の整理では、対象となる清浄度はISOクラス5〜8です(2026年9月8日確認)。
粒子の等級そのものは工業用と同じ物差しで、ISOクラス5が旧クラス100に相当します。等級ごとの粒子数上限はクラス早見表をご覧ください。規格の本文は日本産業標準調査会(JISC)のJIS検索で確認できます。
バイオ分野で特徴的なのは、粒子の等級とは別に業種ごとの製造管理のルールが清浄度の区分を持っていることです。医薬品では、どの作業をどこで行うかによって区域をグレードA〜Dに分けます。グレードAに相当する無菌操作の重要区域は、ISOクラス5相当の環境が前提です。清浄度の物差し(クラス)と区域の区分(グレード)の使い分けはクリーンルームのグレードとGMPの4区分で解説しています。
医薬品の無菌製造で参照される厚生労働省の「無菌操作法による無菌医薬品の製造に関する指針」は、区域ごとの粒子と浮遊菌の上限を次のように示しています。
| グレード | 区域 | 粒子の清浄度(作業時) | 浮遊菌(CFU/m³) |
|---|---|---|---|
| A | 重要区域(無菌充てんなど) | ISO 5 | 1未満 |
| B | 直接支援区域 | ISO 7 | 10 |
| C | その他の支援区域 | ISO 8 | 100 |
| D | その他の支援区域 | 作業形態による | 200 |
粒子の上限だけでなく、同じ表の中に菌数の上限が並ぶ点が、工業用にはないBCRの特徴です。落下菌・表面付着菌の基準と測り方は浮遊菌と落下菌の違いで解説しています。
法令の裏づけもあります。医薬品の製造ではGMP省令が構造設備の基準を定めており、無菌医薬品の作業室には「専用の更衣室を有すること」が要件になっています(e-Gov法令検索・2026年9月4日確認)。このほかヤマト科学の用語集は、清浄度・空中浮遊菌数・温湿度・室間差圧・気流・風速・換気回数などの基準を定める規格としてFDAやEU-GMPなどを挙げています。どの規格・制度に従うかは、部屋の性能より先に決める項目です。
バイオクリーンルームの用途は医薬品・医療・食品
バイオクリーンルームが使われるのは、菌による汚染が製品の品質や人の安全に直結する現場です。製薬工場・手術室・研究室・食品工場・動物飼育施設が代表例として挙げられています(ヤマト科学用語集・2026年9月8日確認)。
| 分野 | 代表的な施設 | 管理の目的 |
|---|---|---|
| 医薬品 | 無菌製剤の製造室、細胞培養加工施設(CPC) | 製品への微生物混入と交差汚染の防止。GMPの区分管理 |
| 医療 | 手術室、無菌病室 | 患者を感染から守る。医療施設の設備計画の領域 |
| 食品 | 充填室・包装室などの清潔区域 | 腐敗菌・食中毒菌の混入防止。衛生管理の枠組みと連動 |
| 研究・実験 | バイオ研究室、実験動物施設 | 実験系の汚染防止と、扱う微生物の封じ込め |
同じBCRでも、守る相手が「製品」なのか「人」なのか「外の環境」なのかで設計が分かれます。医薬品と食品は製品を守る施設、手術室・無菌病室は人を守る施設、感染性微生物を扱う実験室は外の環境を守る施設です。この違いが次の章の室圧の向きに直結します。
なお当サイトは工場・研究施設の設備担当者向けの比較サイトのため、医療機関の施設整備そのものは扱いません。医薬品・食品の工場については、用途別に医薬品工場のクリーンルームと食品工場のクリーンルームで施工会社を比較しています。
バイオクリーンルームの陽圧・陰圧と設計要件
設計で最初に決めるのは、清浄度ではなく「守る対象は製品か、それとも外の環境か」です。ここで室圧の向きが逆になります。
- 製品・検体を守る——室内を陽圧にして、外から菌を入れない。無菌製剤の製造や細胞培養が該当します
- 外の環境を守る(封じ込め)——室内を陰圧にして、菌を外に出さない。感染性微生物を扱う実験室などが該当します
- 両方が要る——前室で圧力を段階化し、区画ごとに向きを変えます。細胞培養加工施設や動物実験施設が該当します
清浄区域は隣の部屋より高い室圧が原則
医薬品の無菌製造の指針は、構造設備の設計上の要点として「清浄区域の室圧は扉などで隣接する清浄度レベルの低い区域の室圧よりも高く設定すること」と定め、「封じ込め施設の場合はこの限りではない」と例外を置いています(6.1 22))。製品を守る部屋は陽圧、病原体を外に出さない部屋は例外として扱う、という上の整理はこの規定と対応しています。
無菌区域との差圧は10〜15Pa以上が目安
同じ指針は、無菌操作区域とその他の支援区域の間にエアロックを設け、扉を閉じた状態で10〜15Pa又はそれ以上の差圧を維持することが望ましいとしています(7.2.2)。一方、病原性の高い微生物を扱うBSL3施設については、微生物の漏出を最小限とするため作業室の内向き気流を確保し、差圧を測定・記録するよう求めています(付録A4.6)。いずれも指針の本文で2026年9月24日に確認しました。
圧力の段階のつけ方と差圧の考え方は換気回数と差圧の基準で解説しています。陽圧・陰圧の使い分けと、規制から設備要件を逆算する手順はバイオクリーンルームの施工会社比較ページに詳しくまとめました。
無菌区域は排水口なし・消毒剤に耐える内装
もう1つ、工業用との大きな違いが内装仕様です。維持の方法が清掃ではなく洗浄・除菌・消毒・滅菌になるため、薬剤に耐え、水がたまる目地や隙間を作らない内装が求められます。無菌医薬品の指針も、壁・床・天井の表面を「清掃可能で洗浄剤や消毒剤に耐える材質」とし、無菌操作区域には排水口や流しを設置しないよう定めています(6.1 16)・17))。日常の清掃・除菌の組み立て方はクリーンルームの清掃の記事を、人からの発塵を抑える運用はクリーンルームの入室手順をご覧ください。
バイオクリーンルームと手術室の清浄度クラス
病院でバイオクリーンルームの代表例として扱われてきたのが、バイオクリーン手術室です。ただし病院の清浄度クラスは、ISO 14644の粒子の等級とは別の物差しです。
日本医療福祉設備協会の病院空調のガイドラインが、院内の区域を清浄度クラスⅠ〜Ⅴに分けています。このうちⅠ〜Ⅲは次のとおりです。
| 清浄度クラス | 区域 | 該当する室の例 | 空調の要点 |
|---|---|---|---|
| Ⅰ | 高度清潔区域 | 超清浄手術室(旧称バイオクリーン手術室) | HEPAフィルターと垂直または水平の層流方式。周辺の部屋に対して陽圧 |
| Ⅱ | 清潔区域 | 一般手術室、易感染患者用病室(第5版でⅠから変更) | 高性能またはHEPAフィルター。周辺の部屋に対して適切な室圧と気流の向き |
| Ⅲ | 準清潔区域 | ICU、NICU、分娩室など | 中性能以上のフィルター。クラスⅣ以下の区域に対して陽圧 |
名称にも変化があります。2022年発行の第5版(HEAS 02-2022)では、「バイオクリーン」の定義が明確に確立されていないことから、バイオクリーン手術室は英語の“ultra clean”に合わせて「超清浄手術室」へ名称が改められました。推奨の中身は変わっておらず、層流空調の推奨も維持されています。一方、感染症の患者を隔離する空気感染隔離室(陰圧個室)は陰圧とされており、病院でも守る相手によって室圧の向きが逆になります。
なお、手術室の清浄度は医療法などの法令では規定されておらず、学会等の指針が推奨する形です(日本手術医学会のガイドライン)。工場・研究施設のBCRが、医薬品のGMPのように業種ごとの制度から要件を決めるのとは、根拠の置き方が異なります。病院の設備計画は当サイトの比較対象外のため、ここでは用語と区分の整理にとどめます。
バイオクリーンルームの施工の頼み方
バイオクリーンルームの施工は、適用される規制と扱う対象を先に整理してから、バイオ分野の記載がある設計施工会社に相談するのが正しい順番です。規制が決まらないまま見積もりを取っても、金額は比較できません。
発注者側で整理しておくのは3点です。①どの制度の下で運用するか(GMP・再生医療関連の制度・バイオセーフティレベルなど)、②守る対象は製品・人・環境のどれか、③要求する清浄度クラスと微生物管理の水準。この3点がそろうと、各社の提案書を同じ土俵で比べられます。相談から引き渡しまでの工程は施工手順の記事のとおりです。
会社選びでは、バイオ分野や医薬品向けの記載を公式サイトで確認できるかが最初の絞り込みになります。当サイトでは、バイオ領域の記載を確認できた会社をバイオクリーンルームの施工会社比較5選で公表情報つきで並べています。用途を問わず全体から探す場合は設計施工会社の比較ページから、対応範囲と実績で絞り込んでください。
バイオクリーンルームに関するよくある質問
バイオクリーンルームについて、一般のものとの違い、必要なクラス、BCR・バイオクリーン室という名称の関係、病院の無菌室や手術室との違い、施工の依頼先など、発注前に多い質問に本文の内容をもとに答えます。
バイオクリーンルームと一般のクリーンルームの違いは何ですか?
管理対象が違います。前者が主に浮遊粒子を対象とするのに対し、後者は微生物を対象とします。さらに、扱う対象によって室圧を陽圧にするか陰圧にするかが逆になる点が決定的な違いです。維持の方法も、清掃だけでなく洗浄・除菌・消毒・滅菌が加わります。
バイオクリーンルームのクラスはいくつが必要ですか?
蒲田工業の整理ではISOクラス5〜8です(2026年9月8日確認)。医薬品では、無菌操作を行うグレードA相当の重要区域でISOクラス5相当が前提になります。実際の要求値は、適用される規制と扱う対象で決まるため、制度の確認が先です。
バイオクリーンルームとバイオロジカルクリーンルーム、バイオクリーン室は同じものですか?
同じものです。正式名称がバイオロジカルクリーンルーム(BCR)で、ほかの2つは略称・別表記にあたります。工業用(ICR)と区別するための呼び方です。
病院の無菌室とバイオクリーンルームは同じですか?
言葉としての無菌室は、微生物まで管理する部屋を指し、BCRとほぼ同義です。一方、病院で無菌室と呼ばれる無菌治療室は、免疫が下がった患者を感染から守る医療用の施設を指します。同じ技術を人を守る目的に使ったもので、製品を守る工場の施設とは目的も制度も異なります。
バイオクリーン手術室とは何ですか?
病院の手術室のうち、清浄度が最も高い清浄度クラスⅠ(高度清潔区域)に当たる手術室です。HEPAフィルターと層流方式の空調を使い、周辺の部屋に対して陽圧を保ちます。日本医療福祉設備協会の病院設備設計ガイドライン(空調設備編)は、2022年の第5版でこの名称を「超清浄手術室」に改めています。
バイオクリーンルームの施工はどこに頼めばよいですか?
バイオ分野や医薬品・食品向けの記載を公式サイトで確認できる設計施工会社が候補になります。当サイトの比較ページでは、バイオ領域の記載を確認できた会社を出典つきで並べています。適用される規制と守る対象を整理してから、同じ要求仕様で複数社の提案を比べてください。
この記事を書いた人
執筆・編集:クリーンルームラボ 編集部
クリーンルームの設計施工会社について、対応分野・施工体制・公表実績を公式情報にもとづいてまとめています。
参照した情報:ヤマト科学 用語集「バイオロジカルクリーンルーム」/蒲田工業 クリーンルームのお役立ち情報「インダストリアルクリーンルーム・バイオロジカルクリーンルーム」/e-Gov法令検索|医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(GMP省令)/日本産業標準調査会(JISC)JIS検索/厚生労働省 事務連絡「無菌操作法による無菌医薬品の製造に関する指針」本文(医薬品医療機器総合機構 掲載PDF・2011年4月改訂版)/日本手術医学会「手術医療の実践ガイドライン(改訂2018年版)」第13章 手術部建築・設備/森本正一「病院設備設計ガイドライン(空調設備編)HEAS 02-2022」空気清浄 第62巻第6号(日本空気清浄協会・2025年)/当サイト調べ(掲載企業の公式サイトを2026年9月8日に確認)(2026年8月29日確認)
最終更新:2026年9月25日
