無塵室とは、空気中に浮遊する塵・ホコリの量を決められた水準以下に管理した部屋のことで、クリーンルームと同じ意味で使われる呼び名です。「工場に無塵室を作りたい」という要望は、実務では「クリーンルームを作りたい」と同じ話として扱われます。
ただし、似た言葉の無菌室は管理する対象が違い(塵ではなく微生物)、防塵室には規格上の定義がありません。ここを混同したまま見積もりを依頼すると、必要のない設備が載ったり、逆に規格要求を満たさない提案が出てきたりします。この記事では、用語の違いから、清浄度クラス・仕組み・費用の目安・発注時の伝え方まで、無塵室を「発注できる言葉」に翻訳していきます。
目次
無塵室とはクリーンルームの別名
無塵室とは、空気中における浮遊微粒子が限定された清浄度レベル以下に管理された空間、つまりクリーンルームのことです。辞書でも「無塵室」はクリーンルームの同義語とされています。
業界の規格・カタログでは「クリーンルーム」の呼称に統一されているのが実情です。クリーンルームの定義として広く使われるのはJIS Z 8122(コンタミネーションコントロール用語)で、浮遊微小粒子・浮遊微生物が限定された清浄度レベル以下に管理され、必要に応じて温度・湿度・圧力などの環境条件も管理されている空間と定められています。「塵が無い」と書きますが、塵がゼロという意味ではなく、決めた水準以下に管理されている、が正確な理解です。
呼び名の対応を整理しておきます。
| 呼び名 | 指すもの | 使われ方 |
|---|---|---|
| 無塵室 | クリーンルームと同じ | 現場・慣用での呼び名。求人や社内文書で見かける |
| クリーンルーム | JIS・ISOで定義された正式な用語 | 規格・カタログ・見積書はこちらで書かれる |
| クリーンブース | 既存の部屋の中に作る簡易な清浄空間 | 部分的な清浄化。クリーンブースの解説参照 |
つまり「無塵室が欲しい」は入口の言葉としては何も問題ありません。問題は、この言葉のままでは仕様が1つも決まっていないことです。以降の章で、決めるべき中身を順に見ていきます。
無塵室・無菌室・防塵室の違い
3つの言葉は「何を管理するか」が違います。無塵室(クリーンルーム)は塵=微粒子、無菌室は微生物、防塵室は規格上の定義がない慣用語です。
| 無塵室(クリーンルーム) | 無菌室(バイオクリーンルーム) | 防塵室 | |
|---|---|---|---|
| 管理する対象 | 空気中の微粒子(塵・ホコリ) | 微生物(細菌・真菌など)。微粒子の管理が前提になる | 定義なし。粉じんの侵入を抑えたい部屋の慣用的な呼び名 |
| 参照する枠組み | ISO 14644・JIS | GMP(医薬品)、病院の無菌病室の基準など | なし(案件ごとの仕様) |
| 主な用途 | 半導体・電子部品・精密機器・研究施設 | 無菌医薬品の製造、再生医療、無菌病室 | 検査室・組立室など「一般室より少しきれいにしたい」場面 |
| 設備の特徴 | HEPAフィルタによる給気と陽圧管理 | 無塵室の設備に加えて、滅菌・消毒しやすい内装、区域ごとの差圧設計 | 簡易な陽圧化やフィルタ付き換気で済むことが多い |
重要な関係は、無菌室は無塵室の上位互換ではなく、「微粒子管理の土台の上に微生物管理を載せたもの」だということです。微生物は単独で浮遊するより塵に付着して運ばれるため、まず微粒子を抑え、そのうえで滅菌・差圧・材質の要件が加わります。
一方の防塵室は、定義がないだけに便利な言葉ですが、見積もり段階では危険な言葉でもあります。「防塵室でいい」と伝えた結果、会社ごとに想定する仕様がバラバラの見積もりが返ってくる——これが実際に起きる問題です。求める水準をクラスで言えるようにしておくと、この混乱は避けられます。
無塵室の清浄度はクラスで表す
無塵室の「きれいさ」は、空気1m³中の粒子数で決まる清浄度クラス(ISOクラス1〜9)で表します。数字が小さいほど清浄です。よく使われる帯を抜粋します。
| ISOクラス | 旧呼称(米国連邦規格) | 使われる場面の例 |
|---|---|---|
| ISOクラス5 | クラス100 | 半導体、無菌操作の重要区域 |
| ISOクラス6 | クラス1,000 | 精密機器・電子部品の製造 |
| ISOクラス7 | クラス10,000 | 医薬品・医療機器・食品の作業室 |
| ISOクラス8 | クラス100,000 | 包装・検査など、一般室より一段きれいな作業室 |
「無塵」という字面から「一番きれいなクラスにしたい」と考えがちですが、クラスを1桁上げるごとに必要風量と設備・電力が跳ね上がります。清浄な空気をより多く送り続ける必要があるため、フィルタの面数も送風機の容量も電力も、クラスに引きずられて増えていく構造です。製品と工程が要求する最低限のクラスを選ぶのが、費用面での正解です。クラスの正確な定義(粒径ごとの粒子数上限)と旧クラス表記との対応はクリーンルームのクラス早見表にまとめています。
もうひとつ大事な前提が測定の状態です。清浄度は、設備だけ動いている非作業時と、人が作業している作業時で数値が変わります。人は動くだけで大量の粒子を出すためです。見積もり・契約でクラスを指定するときは、どちらの状態での保証かを必ず添えてください。
無塵室の仕組みは送風とろ過の循環
無塵室は「HEPAフィルタでろ過した空気を送り込み、室内の塵を押し流し、部屋を陽圧に保って外からの侵入を防ぐ」という循環で成り立っています。要素は4つです。
| 要素 | 役割 |
|---|---|
| 給気(FFU・空調機+HEPAフィルタ) | 0.3µm級の微粒子を捕集した清浄空気を天井から供給する。FFUの仕組み参照 |
| 気流設計 | 天井から床への下向きの流れで粒子を押し下げる。全面一方向流か、希釈方式かで作れるクラスが変わる |
| 陽圧(差圧)管理 | 室内の気圧を外より高く保ち、すき間からの塵の侵入を防ぐ。換気回数と差圧の設計参照 |
| 発塵の抑制 | 発塵しにくい内装材と、人・物の持ち込み管理。設備だけでは清浄度は維持できない |
気流の考え方はシンプルです。塵は「取り除く」より「発生した先から押し流す」ほうが確実で、そのために天井から床へ、一定方向の流れを作ります。高いクラスほど天井のフィルタ面積(FFUの設置密度)が増え、床も通気性のある構造になっていく——設備の規模はクラスの関数だと考えてください。
気流方式の違いを、規模感とあわせて並べます。
| 気流方式 | 仕組み | 作れる清浄度と規模感 |
|---|---|---|
| 一方向流(層流) | 天井全面から床へ、平行な流れで粒子をその場で押し流す | 最も高い清浄度。天井全面フィルタ+通気床で設備は最大級 |
| 非一方向流(乱流・希釈方式) | 天井の一部から清浄空気を送り、室内の空気を薄める | 中程度のクラス。一般的な無塵室の多くはこの方式 |
| 局所一方向流 | 部屋はほどほどに保ち、重要な工程の直上だけ一方向流にする | 高清浄が要る範囲を絞れる。費用対効果が高い |
そして4つ目の「発塵の抑制」が、設備と同じくらい効きます。最大の発塵源は人です。無塵衣(クリーンスーツ)の着用、持ち込み物の制限、粘着マットでの靴底処理といった運用ルールは、次の章の規格・業種とセットで決まっていきます。
無菌室が必要になる業種と規格
「無塵でよいのか、無菌まで必要なのか」は業種と規格で決まります。誤解しやすいポイントなので、代表的な用途で整理します。
| 用途 | 必要なのは | 参照する枠組み |
|---|---|---|
| 半導体・電子部品 | 無塵(微粒子管理) | ISO 14644。微粒子が歩留まりに直結する |
| 精密機器・光学 | 無塵(微粒子管理) | ISO 14644。付着塵が不良の原因になる |
| 無菌医薬品・再生医療 | 無菌(微生物管理) | GMP。グレードA〜Dの区域設計と、非作業時・作業時の二段階評価 |
| 食品 | 中間(微生物を意識した清浄区域) | HACCP。水洗いに耐える内装・防虫防鼠が加わる |
| 病院の無菌病室 | 無菌(微生物管理) | 医療施設の基準。患者を守るための清浄空気 |
無菌が求められる医薬品の世界では、清浄度をISOクラスではなくGMPのグレード(A〜D)で区分し、区域ごとに差圧の階層を組みます。この違いは設計の前提そのものを変えるため、GMPの区分とISO規格の使い分けで1本にまとめています。
発注の場面でよくあるのは、「無菌室」という言葉で依頼したが、実際に必要だったのは微粒子管理だけだった(またはその逆)というケースです。自社の根拠規格——取引先の監査要求、業界のガイドライン、法規制——を先に特定すれば、無塵か無菌かは自動的に決まります。用途別の詳しい要件は用途別ガイドをご覧ください。
無塵室の運用ルールが清浄度を維持する
無塵室は作って終わりではなく、人と物の管理を続けて初めて清浄度が維持されます。最大の発塵源が人である以上、運用ルールは設備の一部です。
| 管理項目 | 基本の運用 |
|---|---|
| 入退室 | 前室・更衣室を経由し、エアシャワーで表面の塵を落としてから入室する(エアシャワーの仕組み) |
| 服装 | 発塵しない無塵衣・手袋・キャップを着用。無塵衣は専用のクリーニングで管理する |
| 持ち込み物 | 紙・段ボール・木材など発塵する物は持ち込まない。文具・ワイパー類は無塵仕様の専用品を使う |
| 清掃 | 専用の清掃用具・手順で定期清掃する。一般の掃除機・雑巾は使わない |
| 測定・点検 | 粒子数の定期測定、フィルタ差圧の監視、HEPAフィルタの交換を計画的に行う |
設計の段階で効いてくるのは、この運用が部屋の面積と間取りに跳ね返ることです。前室・更衣室・パスボックス(物の受け渡し口)の分だけ床面積が必要になり、動線が悪いとルールが守られなくなります。設備のスペックだけでなく、「毎日この手順を回せるか」という目で図面を見てください。
もうひとつ、見落とされがちなのが教育と記録です。ルールは掲示するだけでは守られず、新しく入る作業者への教育、定期測定の記録、逸脱があったときの是正までを仕組みにして初めて回ります。取引先の監査を受ける可能性がある場合、この記録類が監査でそのまま確認対象になります。設計施工会社に運用マニュアルの雛形や測定・教育の支援まで頼めるかは、会社選びの比較ポイントのひとつです。
無塵室のメリットと割に合わない場合
無塵室の導入メリットは、異物起因の不良を抑えて歩留まりを上げられること、そして清浄度を数値で示せることで取引先の要求に応えられることの2つに集約されます。一方で、費用と運用の負荷は決して小さくありません。
導入で得るものと失うものを先に並べます。
| 内容 | |
|---|---|
| 得られるもの | 異物不良の低減による歩留まり改善/清浄度を数値で保証できることによる受注機会(監査・認証への対応)/工程環境が安定することによる品質の再現性 |
| かかり続けるもの | 初期費用に加えて、空調・送風の電力、フィルタ交換、無塵衣のクリーニング、清掃・測定という運転費用が毎年発生する |
| 変わる働き方 | 入退室・服装・持ち込みのルールが全作業者に課される。ルールが守られなければ清浄度は数値ごと崩れる |
正直に言えば、無塵室が割に合わないケースもあります。異物不良の原因が空気中の浮遊塵ではなく、装置内部の発塵や材料由来である場合、部屋を清浄化しても不良は減りません。また、清浄度が要る工程がごく一部なら、部屋全体の無塵室化は過剰投資です。導入を決める前に、①不良の原因が浮遊塵だと特定できているか、②清浄度が要る範囲はどこまでか、の2点を確認してください。この2点が曖昧なまま「とりあえず無塵室」に進むのが、最も高くつく失敗パターンです。
ランニングコストはクラスに比例して増えます。運転費用の内訳と抑え方はクリーンルームの費用で、フィルタ交換の考え方はHEPAフィルターの交換時期で解説しています。
無塵室の導入形態と費用の目安
無塵室の作り方は「クリーンブース」「既存室内の部分クリーン化」「本設のクリーンルーム」の3段階があり、費用の桁が変わります。
| 導入形態 | 概要 | 費用感 |
|---|---|---|
| クリーンブース | 既存の部屋の中にFFU付きのブースを置く。工事が小さく移設もできる | 公表価格の例で4㎡・クラス10万が75万円〜(ホクト総研・税別) |
| 部分クリーン化・改修 | 既存室の一角を間仕切り、空調・給気を追加して清浄区域にする | 建屋条件に依存。既存空調の能力と天井高で変わる |
| 本設のクリーンルーム | 部屋全体を設計施工で作る。空調・差圧・内装・ユーティリティ一式 | 個別見積もり。要求クラスと面積で桁が変わり、公表価格はほぼない |
公表されている価格情報が最も多いのはクリーンブースの領域で、同じ4㎡でもクラス100なら120万円〜と、清浄度が1〜2桁上がるだけで価格が1.6倍以上になる構造が公表価格表から読み取れます。価格の決まり方と見積もりに含まれない項目はクリーンルームの費用で詳しく解説しています。
選び方の目安は「清浄度が要る範囲の広さ」です。工程の一部だけなら、部屋全体を無塵室にするよりブース・局所クリーン化のほうが設備も電力も小さく済みます。逆に、人・物の動線全体で清浄度を守る必要があるなら、前室や差圧設計を含む本設の領域です。
無塵室の発注は要求仕様の言語化から
「無塵室を作りたい」を見積もり可能な依頼にするには、クラス・面積・温湿度・用途の4点に翻訳して伝えます。この4点が揃うと、各社の見積もりが同じ土俵で比較できるようになります。
| 伝えること | 書き方の例 |
|---|---|
| 清浄度クラスと判定状態 | 「ISOクラス7・非作業時」のように、クラスと測定状態をセットで |
| 面積・天井高・場所 | 既存建屋のどこに、何㎡。図面があれば添付する |
| 温湿度の条件 | 設定値と許容幅。「23℃±2℃」など。根拠(製品要求)も添える |
| 用途と根拠規格 | 何を作る部屋か、参照する枠組み(ISO・GMP・HACCPなど)はどれか |
4点のうち自社で決めきれない項目があっても構いません。「クラスは工程からの提案が欲しい」と正直に伝えれば、設計施工会社は要求条件の整理から入ってくれます。むしろ根拠なくクラスを高く指定するほうが、過大な設備投資につながります。
依頼から引き渡しまでの流れと見積もりの比べ方は施工手順と見積もりの取り方に、無塵室(クリーンルーム)の設計施工に対応する会社は設計施工会社の比較にまとめています。用語の呼び方はどうであれ、発注の中身はこの記事の4点に集約されます。まずはここから固めてください。
※本記事は2026年8月31日時点で確認した規格・公表情報にもとづきます。個別案件の要件は、根拠規格と設計施工会社への確認をお願いします。
無塵室に関するよくある質問
無塵室について、クリーンルームと同じものか、無菌室・防塵室との違い、中は本当に塵がゼロなのか、導入費用と維持費の目安など、発注前に多い質問に本文の内容をもとに答えます。
無塵室とクリーンルームは同じものですか?
同じものを指します。無塵室は空気中の塵・ホコリを決められた水準以下に管理した部屋の慣用的な呼び名で、規格・カタログ・見積書ではクリーンルームという用語に統一されています。見積もりを依頼する際はクリーンルームとして、清浄度クラスを添えて伝えると話が速く進みます。
無菌室とクリーンルームの違いは何ですか?
管理する対象が違います。クリーンルーム(無塵室)は空気中の微粒子を管理し、無菌室は微生物を管理します。無菌室は微粒子管理の土台の上に、滅菌しやすい内装や区域ごとの差圧設計を加えたもので、医薬品のGMPや病院の基準を参照して作られます。
防塵室とは何ですか?
規格上の定義がない慣用語で、粉じんの侵入を抑えたい部屋を指して使われます。定義がないため、見積もり依頼で「防塵室」とだけ伝えると会社ごとに想定仕様がばらつきます。求める水準をISOクラス(またはクラス相当)で伝えることをおすすめします。
無塵室の中は本当に塵がゼロですか?
ゼロではありません。清浄度クラスごとに空気1m³あたりの粒子数の上限が決まっており、その水準以下に管理されているという意味です。また、人が作業すると粒子は増えるため、非作業時と作業時のどちらの状態で管理するかも契約時に決めておく必要があります。
無塵室を作るにはいくらかかりますか?
導入形態で桁が変わります。既存室内に置くクリーンブースは公表価格の例で4㎡75万円から(ホクト総研・税別)、部屋全体を本設のクリーンルームにする場合は要求クラス・面積・建屋条件による個別見積もりが基本で、大手設計施工会社は価格を公表していません。当サイトの費用解説で、公表価格から読める費用構造を整理しています。
無塵室の維持費はどのくらいかかりますか?
公的な相場は公表されていませんが、費目は決まっています。送風・空調の電力、プレフィルタとHEPAフィルタの交換、無塵衣のクリーニング、清掃用消耗品、定期の粒子測定です。いずれもクラスが高いほど増えるため、維持費を抑えたい場合は「清浄度が要る範囲を絞って部屋のクラスを下げる」のが最も効きます。見積もり時に年間の運転費用の試算も依頼してください。
この記事を書いた人
執筆・編集:クリーンルームラボ 編集部
クリーンルームの設計施工会社について、対応分野・施工体制・公表実績を公式情報にもとづいてまとめています。
参照した情報:JIS Z 8122 コンタミネーションコントロール用語(日本産業標準調査会)/ホクト総研 オーダークリーンブース(公表価格表)/当サイト調べ(掲載12社の公式サイト・2026年8月31日確認)(2026年8月29日確認)
最終更新:2026年9月24日
